第35章 悪魔の実
薄暗い部屋できょろきょろと辺りを見渡すと、誰かが飲んでいたのだろうワインのボトルが見つかる。それを後ろ手につかみ、立ち上がると水琴は回転し遠心力を加えて壁に叩きつけた。
ガシャンと音がする。急いで欠片を拾うと、水琴は手首の縄へそれを押し当てた。
後ろ手ということもありうまく切れず、何度も手首を傷つけるが水琴は黙々とガラスを動かし続ける。
はらりとようやく手首が自由になった頃には水琴の手は傷だらけだった。そんなことお構いなく、急いで立ち上がる。
そして武器になりそうなものはないかと再度部屋を見渡した時、足音が近づいてくるのが聞こえた。
咄嗟に水琴はあるものを手に持ち、後ろにして寝転がる。
まだばれるのはまずい。
「おい、時間だ」
「時間…?」
やってきた男は二人。縄が解けている事にも気付かず、男は水琴を立ち上がらせた。
「船長が悪魔の実を持って来いってよ。これからデモンストレーションが始まるらしいぜ」
楽しみだなァ、と笑う姿にはらわたが煮えくりかえるのを必死に堪える。
「そこにはお前も連れていくんだとよ。女も守れず死んでいく火拳…傑作だなこりゃ!」
何が楽しいのか分からないし、分かりたくもない。
顔を歪める水琴を気にすることもなく「おら、こい」と乱暴に肩を押される。
連れてこられたのは別の部屋。テーブルには木箱が一つ置いてある。
「それ…」
「あぁ。これが悪魔の実だ」
木箱を手に持ち、男が笑う。
「可哀想になぁ。火拳なんかと一緒にいなきゃ、死ななくても良かったものを」
「…やっぱり、私を助ける気なんかなかったんでしょう」
こいつらのことだ。どうせエースの目の前で”仲間”の私を殺して、更なる絶望を与えようという魂胆なのだろう。
睨みつける私の襟元を力任せに手繰り寄せ、無理やり上を向かされる。
「俺の女になるなら助けてやってもいいんだぜ…?」
「冗談でしょ」
こんな男の物になるくらいなら、死んだ方がましだ。
最後まで、”力”には屈しない。
私だって、白ひげのクルーだ。