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【ONEPIECE】恵風は海を渡る【エース】

第35章 悪魔の実




 「……っ!!」
 「おらよ」



 連れてこられた部屋はどうやら倉庫の様で、無遠慮に放り投げられ水琴はその衝撃に顔を歪めた。

 腕は後ろ手に縛られているためうまく立ち上がることもできない。
 必死に顔を上げ、たった今自分を投げ入れた男をきっと睨みつけた。

 「エースは無事なの?!」
 「は、こんな状態で火拳の心配かよ嬢ちゃん」
 「当たり前でしょ。エースを殺したりしたら、許さない…!」
 「威勢がいいな。許さないってどう許さないんだ、え?」

 にやにやと下品な笑みを浮かべ、男は水琴を見下ろす。答えを返せず、水琴は黙り込んだ。

 「安心しろよ。火拳の野郎は生きてる。まだな」
 「まだ…?」

 ほっとしたのもつかの間、嫌な予感に汗が伝う。

 「船長が悪魔の実ってやつを手に入れてなぁ。今日はその能力のお披露目をするらしいぜ。楽しみだよなぁ」

 にやりと笑って男は出ていった。残していった言葉に血の気が引く。


 つまり、あの男は悪魔の実の能力でエースを処刑しようというのだ。


 「……っ、このっ……!」

 拘束を解こうと身体をねじるが、縄は容赦なく水琴の手に食い込む。
 どうにもならず、水琴はがん!と床に頭を打ち付けた。

 分かっている。いくら許さないと叫んだところで、私には何もできない。
 ただ転がって。クルーの誰かが異変に気付き助けに来てくれるのを待つことしか。



 悔しさにじわりと視界がにじむ。
 薄汚れた倉庫で一人転がされている姿がよけい惨めに感じられた。



 「…泣いている場合じゃ、ない」


 こうしている間にもエースの身に危険が及んでいるかもしれないのだ。

 何もできないなんて言葉で、何も始めていないうちから諦めてどうする。


 あの井戸に自ら飛び込んだ時、決めたんじゃなかったのか。

 皆が命を懸けて生きるこの世界で、私も共に懸命に生きようと。





 考えろ。

 考えろ。



 私は、ただ守られるためにこの世界を選んだんじゃない。



 のろのろと顔を上げ、部屋を見渡す。

 まずは状況を整理しよう。そして、私がやれることをやろう。



 その眼には闇は無く、ただ強い炎があった。




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