第34章 不穏な影
ゆっくりと元来た道を戻ろうと後退する。すると後ろで「きゃっ…?!」と水琴の悲鳴が聞こえた。
慌てて振り向く。
「水琴…!?」
「エース……」
見えたのは立ちすくむ水琴と、その頭に銃を突きつけた数人の男たち。
船の方にばかり気を取られ、後ろの気配に気づかなかったエースは内心舌打ちした。
「お前ら、そいつを離せ」
高ぶる殺気に反応するようにエースの肩から煙が立ち上がり始める。
「なぁに。言うこと聞きゃ離してやるよ、火拳」
「何だと…?」
背後から聞こえた声に警戒しながら目をやる。そこに立っていたのは船長だろう風貌の男。
「まさかこんな所で火拳に会えるとはなぁ…。俺も運がいい」
「お前……」
「この前は傘下の奴らが世話になったな」
言われ、そう言えばあの旗は以前壊滅させた海賊団が掲げていた物と似ていたと気付く。
「なるほど、仇討ってわけか?その割には女人質にとって小せェことするじゃねーか」
「はっ!見くびるなよ。別に傘下の奴らがどうなろうと知ったこっちゃねー。ただ上納が減るってだけだ」
その、仲間を何とも思っていないような言い口にエースも水琴も眉をひそめる。