第34章 不穏な影
「おー、結構広いのな」
「エース、もう少し明るくして」
「あァ、悪ィ」
ぼ、と指先の炎を強めると水琴も周囲を見渡す。
「すごいねぇ。あ、鍾乳石!」
長い年月を掛けて伸びたのだろう、かなりの長さの鍾乳石が天井を飾っていた。
滑って転んだりしないよう、しっかりと水琴の手を握りエースは慎重に歩を進める。
ぶる、とした振動をエースは左手に感じた。
「水琴、寒いのか?」
「ん、ちょっと」
見ると少し震えている。先ほど泳いだ水着の上にTシャツだけなのだから洞窟の中では寒いのだろう。エースは着ていたパーカーを脱ぎ水琴の肩へかけてやった。
「ほら、着とけよ」
「え、いいよエースが寒いでしょ」
「ばーか。おれを誰だと思ってんだ」
指の炎を強くすれば水琴も承知したようで、お借りしますと袖を通した。
「エースの上着あったかい」
「そりゃよかった」
えへへ、と笑う水琴が可愛らしくて、照れ隠しにぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
ちょ、髪崩れる!と必死になる水琴にぶっと噴き出し、膨れる水琴の手をもう一度取るとエースは更に進んでいった。
「ねぇ。どこまで続いてるのかな、この洞窟」
「さァなァ。結構歩いてるけど…お?」
そこから少し進むと、きらりと光る水面が見えた。どうやら少し広くなった場所があるらしい。足を進め、エースの炎が周囲を照らす。
「おォ!」
「すごい…!」
そこは洞窟湖だった。
ヒカリゴケでも生えているのだろうか。うっすらと光る湖は幻想的で、思わず二人は黙り込んでしまった。