第31章 選んだのは
「エース!お前何やってんだ!!」
甲板へ出るとすぐさまサッチから怒鳴り声が飛ぶ。
それを無視しエースは手近のロープを掴むと端をサッチに向かって投げた。
「うおっ?!」
「悪ィサッチ!話はあとで!!」
そのまま突っ走り甲板から海へ飛び込む。
「エースが海に落ちたぞォォ!!」
「落ちたってか、飛び込まなかったかあいつ?!」
慌てふためくクルーの声が遠ざかる。
あっという間にエースは冷たい海に呑み込まれていった。
***
轟轟と耳に聞こえるはずのない音が響く。
荒れ狂う波は容赦なく水琴を振り回した。
酸素を求め水面に出ようとするが荒々しく襲い掛かる波しぶきはそう簡単に水琴を水面へと出してはくれない。
重くなっていく視界に、波とは異なるしぶきが映る。
ぐいと強く腕が引かれた。
ものすごい力で水琴はようやく水面に顔を出し空気を取り込む。
「っは!!…はっ……」
「……水琴?」
「……エース?」
身体を支える人物に視線を向ける。
そこには呆然と水琴の腕をつかむエースがいた。
「ってことは、帰ってこれたの…?」
「………」
「ありがとうエース。危うく溺れるところだった、って…?!」
目の前でエースの身体が沈む。
慌てて支え顔が水面に出るよう持ち上げた。
「あぁそうだ!!エース能力者じゃん!なんで海にいるの?!」
誰か助けてぇぇ!!!という水琴の叫びが届いたのか、急に浮遊感が水琴を襲う。
見ればエースの身体に巻き付いていたロープが引き上げられているらしい。
落とされないようにとしっかりとロープを握りしめ、水琴は早く引き上げられるようにとただ願う。
背後で嵐が収まり日が出てくるのを感じる。
どうせならもう少し早く収まってほしかった。