第31章 選んだのは
モビーディックは嵐に襲われていた。
舵を取るために甲板をクルーがばたばたと走り回る。
万が一にも海に落ちたら大変だと、能力者はみな船内待機を命じられていた。
することもなく暇を持て余したエースは自室のベッドに寝転がりペンダントをいじる。
最近は暇さえあればペンダントをいじるようになっていた。
もう水琴の話題を出す者もほとんどいない。
___エース。
無邪気に笑う水琴の姿が鮮やかに浮かび上がる。
慣れない文字に四苦八苦する姿。
サッチの料理を美味しそうに頬張る姿。
新しい島を発見するたびに楽しそうに指をさしこちらを見上げる姿。
今でも、こんなにもはっきりと水琴の姿を思い出せるのに。
彼女は、ここにはいない。
ペンダントを握り胸に当てる。
少しばかり眠ろうと目を閉じたときだった。
瞼越しに光が差すのを感じ眉を顰める。
部屋の明かりは消してある。
それならば嵐を抜けたのだろうかと目を開けると、光は意外にも自身の手元から溢れていた。
「なんだこりゃ……?」
光っているのがペンダントだと気付きまじまじと見つめる。
光は最初石の中で揺らめくように穏やかだったが、突如鋭い光の線となって窓の外へ伸びていった。
自然そちらへ目を向ける。
光は荒れ狂う海をまっすぐ差していた。
何があるかと目を細める。
エースの目が、黒い影を捉えた。
それが何か認識する間もなく海の中へ落ちる。
「!!!」
それを見てエースは自室を飛び出した。
なぜかわからないが、それが水琴だと確信できた。