第30章 あるべき場所
「水琴」
扉に向かう水琴にシスターが最後の言葉を掛ける。
「たとえもう会えなくても。
ここはいつまでもあなたの家で、家族よ」
似たようなことを誰かに言われた気がする。
「__ありがとう」
シスターを残し自室へ戻る。
引き出しを開け、大事にしまわれていた光沢のある箱をそっと撫でた。
ビブルカードを一枚そっと取り出す。
「お願い……」
水琴の願いに応えるように、それは一度微かに震えるとゆっくりと動き出した。
その動きを追うように水琴は駆けだす。
向かった先は井戸だった。
「……ここに入るの?」
ビブルカードは変わらず井戸の中を指す。
秋の井戸水は冷たい。
飛び込めばきっと今度こそ溺れてしまうだろう。
けど、それでも。
揺れるペンダントを掴む。
ビブルカードをケースの中にしっかりとしまうと、水琴は井戸の淵に足を掛け、そして。
冷たく暗い穴に、その身を躍らせた。