第30章 あるべき場所
___私、嫌なんです。帰りたい。帰してほしい。
記憶の中の過去の私が小さく呟く。
それは初めて自分がこの世界では異質だと知った日。科学者の塔で大佐と対峙した時。
___お願いです、私を帰して……
___……君は、
いったい、どちらへ帰りたいんだ?
大佐が言いかけた言葉の続きが今になって分かる。
あの時、脳裏に思い描いたのはどちらの家族だった?
自然と、何の疑問も抱かずに、彼らの下へ帰りたがっていた自分に気付く。
「神様は、その人に本当に必要なものしかお与えにならないわ。
あなたが越えられるはずのない世界を越えたのも、彼らに出会ったのも、すべては主のお導き。
__なら、そこから生まれたあなた自身の気持ちを、疎かにしてはいけないわ」
あなたは、自由に生きていいの。
向こうの世界を選ぶということがどういうことか。シスターに分からないはずはない。
それでもただ水琴のことだけを考える想いに収まっていた涙が再び溢れる。
しかしその涙は先程よりずっと優しく、温かい。
「……シスター」
「なぁに」
「あのね、確かに帰らなきゃって思ってたけど、シスターたちが大切で、帰りたいって思ってたのも事実なんだよ」
「えぇ。もちろん分かってるわ」
最後になるだろう抱擁に身を任せる。
「……向こうに帰れると思う?」
「帰れるわ。あなたがそれを望むなら」
ぎゅっと体を抱きしめ離れる。