第30章 あるべき場所
「私が、持っていたのはっ…赤いペンダントだったはずなのに……っ
なんでこのペンダントは青いのか、それすらもう思い出せない……!!」
シスターの胸の中でただただ水琴は涙を流す。
痛々しい叫びをあげる水琴をシスターは黙って抱きしめ続けた。
「ねぇシスター、これでよかったんだよね?
だって、私の生まれた世界はここだから。
この世界の人間なんだから、この世界で生きていくのが当たり前。
あるべきものはあるべき場所に。そのようにあるべきでしょう?」
そう思わなければ、水琴の心はつぶれてしまいそうだった。
仕方のないことだった。
生きる世界が違うのだから。これでよかったのだと。
「___えぇ、そうね」
水琴の悲痛の問いにシスターは静かに頷く。
涙で濡れる水琴の頬を優しく撫でると、シスターは水琴の顔を上げさせた。
優しい瞳が水琴を見つめる。
「あるべきものはあるべき場所に。そう神様がお決めになったのだから」
「なら…やっぱり、私は」
「でもね。あるべき場所が生まれた場所とは限らないわ」
シスターの言葉に首をかしげる。
ねぇ水琴、とシスターは優しく幼子に問うように語り掛けた。
「あなたは帰らなきゃと言った。誰かのために、家族のために。
その責任感の強さと優しさはあなたのとても大事なところよ」
でもね、もっとあなたは自分に素直になっていいの。
「彼らとの日々が消えてしまうと感じて、怖かったのでしょう?
失いたくないって、そう思ったのでしょう?」
「………それは」
「それなら、あなたはそれを手放すべきじゃないわ」