第30章 あるべき場所
「……水琴」
いつの間にかやってきていたシスターが水琴の背中に小さく声を掛ける。
「シスター……」
溢れる涙はそのままに、水琴はシスターへと駆け寄った。
いつも優しく受け入れてくれたその腕に水琴は飛び込む。
「シスター……っ、私……!」
「水琴、いいのよ」
何も知らないはずなのに、そう言ってシスターはいつも私を許す。
この人に、隠し事はしたくない。
「シスター、私ね、本当は全部覚えてるの……!」
「そう」
「でも、誰にも言えない。だって、信じてくれない……っ」
「私は信じるわ」
「頭がおかしいって思うかもしれない。でも、夢物語なんかじゃなかったのっ…彼らは、本当に……っ」
「えぇ」
支離滅裂な水琴の話をシスターは口を挟むことなくただただ頷き聞き続けた。
「手紙を託された。私が帰ることで解放される人がいた。
私の帰りを、待っていてくれる人がいた……っ
記憶がなくなるって、分かってたのに……!
それでも帰らなきゃって。…っ決意して、この世界に帰ってきたのに……っ
だんだん、忘れていくの。大切だったのに、思い出したくてももう思い出せない!!」
優しく、強いもう一つの家族。
いつも傍にいてくれた、誰か。
「忘れたくない。あの日々が消えてなくなってしまうことが怖い…っ」
ペンダントを握る。その手の中で光るのは青い水晶。
ずっと傍らにあったはずのそれの違和感に気付いた時から、きっとすべてを忘れ元の日常に帰ることなど不可能だったのだ。