第30章 あるべき場所
はたしてオルガンなんて最初からあっただろうか?
今朝の夢のせいか、音楽の力か。今ではほとんど思い出せなくなっていた向こうの世界での出来事が次々と頭に浮かんできた。
指を動かしながら、水琴の思考はいつの間にか偉大な海へと飛んでいく。
耳の奥に響く潮の騒めき、風の音色。
海に散らばる七色の光が、水琴の脳裏に鮮やかによみがえる。
___そうだ。確か、誰かが用意してくれたんだ。
立ち寄った島で廃棄されそうになっていたオルガンを、私のために。
元の世界を想って弾く私を見て、誰かが。
「…誰だったっけ」
知らず言葉がこぼれる。
同時に頬を冷たい何かが滑り落ちた。
それが涙だと気づくのに少し時間がかかる。
「……あれ、私、なんで…」
___だって私、何も言わなかったのに…
___言わなくったってわかるさ。
一度溢れた涙は止まってくれず。
とうとう水琴はオルガンを弾くのをやめ顔を覆った。
___分からない。
___分からないことが、とても苦しい。
胸に揺れるペンダントをぎゅっと握る。
それは小さい頃から水琴が落ち込むときに勇気をくれる魔法の品だった。