第30章 あるべき場所
窓の外では紅葉が色づき始めていた。
早朝。肌寒い廊下を水琴は子どもたちを起こさないように静かに進む。
目当ての扉に到着すると音を立てないように鍵を開け中に滑り込んだ。
静寂に包まれた礼拝堂は神聖な空気に包まれており、ステンドグラスに彩られたイエスキリストだけが水琴をじっと見下ろしていた。
この世界に戻ってきてから、誰もいない早朝の礼拝堂でオルガンを弾くことが水琴の日課になっていた。
なぜそれを始めようと思ったのかは分からない。何か理由があったのかもしれないが、今となってはただやらないと落ち着かないというだけで水琴は惰性に続けていた。
黙って水琴を待つオルガンの前に座る。
姿勢を正し、水琴はオルガンの鍵盤を叩いた。
柔らかい音色が礼拝堂に響く。
___そういえば、向こうでもよく弾いていたっけ。
無心となる水琴の思考にぽつりと映像が浮かぶ。
食堂に置いてあったオルガンを弾いていたことを水琴は思い出す。
水琴の周りに集まる楽しげなクルーたち。
しかし水琴はそれに疑問を覚えた。