第29章 帰ってきた日常
目の前にぶら下げられた赤いペンダントを見て、少女の顔が綻ぶ。
慣れぬ手つきでペンダントを胸にぶら下げると、少女は誇らしげに白ひげを見上げた。
___ありがとう!エド。
___大切にするね。
「……親父?」
一瞬の白昼夢。
モビーディックの甲板へ引き戻された意識は、すぐに傍に立つエースへ向かう。
不思議そうに白ひげを見上げるその手に握られるのは、記憶の中と変わらぬ煌めきを宿す。
「…グララララ」
自然笑いがこみ上げる。
「なるほど。縁とは不思議なもんだ」
「…?」
「親父!エース!そろそろ島に着くぞ!」
「あ、おう!」
クルーの声にエースが去っていく。
その後ろ姿を優しく白ひげは見送った。
「…末っ子じゃなくて、長女だったか」
はたしてこの縁は偶然か、必然か。
答えの分からぬその謎は白ひげの胸だけにそっとしまわれた。