第29章 帰ってきた日常
「辛いのを無理に隠す必要はねェ。だが、いつまでも引きずるのも良くねェ」
「………」
「お前がいつまでもそんなシけた面してちゃあ水琴に笑われちまうぞ」
「……あァ、そうだな」
ふとエースの手に握られたペンダントに気付く。それはどうしたと問えば、エースは白ひげにも見えるように手を開いて見せた。
「あァ、水琴が置いてったんだ。なんでもガキの頃誰かにもらったんだと」
赤い石が太陽の光を反射し煌めく。
その煌めきに白ひげは見覚えがあった。
覚えがあるのはずっと昔だ。
まだ白ひげが海賊団を立ち上げる前、とある海賊船のクルーであった頃。
___だって、お父さんもお母さんも私にはいない。
突然どこからか現れた少女は、小さく肩を震わせながらそう言って泣いた。
軽々と持ち上がるその体は小さく、頼りなく、脆く。
しかし最初は深い悲しみに囚われていたその瞳には、一度笑顔が戻れば強い光があった。
___じゃあエドが海賊団を作ったら、一番に私を迎えに来てね!
___あぁ、迎えに行ってやるよ。だからそれまで笑って、前だけ向いてろよ。
これが、その約束の証だ。