第28章 解放と別離と
炎をまとわせた拳を大きく振るう。
突如生まれた炎の壁は周囲を囲んでいた亡者を一気に呑み込んだ。
その背後から、復活した亡者が立ち上がり迫る。
「ったく、キリがねェな」
次の亡者に備えようと拳を握り締めた瞬間、背後から強烈な光が差した。
目の前で亡者がぼろぼろと崩れ灰となっていく。
驚き後ろを振り返れば、水琴が向かった先、祠から一筋の大きな光の柱が立ち上っていた。
その光は洞窟内を突き抜け島全体を照らす。
まばゆい光に溢れ、しばし皆立ちすくんだ。
強烈な光は段々と弱まり、消えていく。
収まるのを待って周囲を確認すれば、あれだけいた亡者はすべて跡形もなく消えていた。
降り積もる灰とその中に埋もれる武器や布切れが彼らのいた痕跡を僅かに残す。
きっと入り江も同じような光景だろう。
祠を再度見やる。光の柱は収まり、数分前と変わらない静かな風景がエースを出迎えた。
___あぁ、帰ったのだ。
ただそれだけを思う。
「おい、大丈夫か……、……」
ローレンの下へ向かえば彼は静かに岩に寄りかかっていた。
その表情は穏やかで、眠っているように見える。
__いや、眠っているのだ。
百年仲間のために走り続けた彼は、ようやく今彼女の下へいけたのだろう。
その遺体へ黙礼し、ゆっくりと担ぐと泉へと向かう。
そして手を放した。
彼の身体はゆっくりと彼女が眠る泉の中へ沈んでいく。
「エース」
振り返ればサッチが岸に立っていた。
「いったよ。二人とも」
「……そうか」
それだけで何があったか分かったのだろう。軽く目を伏せるとサッチはすぐにいつものように笑顔を向ける。
「帰ろうぜ」
「……あァ」
再び百年の眠りにつく泉を背に出口へと向かう。
「………」
最後、一度だけ振り向いたエースは祠を黙って見つめた。
「……___」
空気を震わすこともなく、ただ口元だけが小さく動く。
誰にも聞かれない呟きを残し、今度こそエースは振り返ることなく洞窟を後にした。