第28章 解放と別離と
言われ口を閉じる。分かってはいる。ここで自分がごねていても状況は悪くなるばかりだ。
ローレンの手当をしたいのであれば、早急に水琴が異世界への扉を開け亡者たちを土に還す必要がある。
しかし、ここまでしてもらった彼を瀕死のまま放って船に乗ることにどうしても水琴は抵抗があった。
「……お願いします、水琴さん」
俯く水琴をローレンの静かな瞳が見上げる。
「彼らを…仲間を解放してほしい」
沸いてくる亡者をサッチとクルーたちが蹴散らしている。
あの中にも彼の仲間がいるのだろうか。確認する術はない。
次第に水琴たちのいる位置にもじわじわと亡者は迫ってきた。
それにエースが一人対峙する。
「行け。水琴」
「………うん」
最後の未練を振り切り、水琴は小舟へ乗り込む。
何とか沖に出ると、ひたすら祠だけを目指し水琴はオールを漕いだ。
泉には亡者は現れないらしく、無事に祠へとたどり着く。
「………」
最後岸の方を振り返る。
炎をまとい亡者へ立ち向かうその背中は振り返らない。
「エース……」
ありがとう。
小さく口だけを動かし、水琴は祠の扉へと手を掛けた。
中は小さな空間になっていて、中央に水琴が両手を広げたくらいの大きさの水盤がある。
その水面が風もないのにゆらりと揺れた。
近付き覗き込めば暗闇に何かが映る。
それは水琴の故郷。
穏やかな光に包まれた教会。
親に捨てられた水琴の、家族になってくれた場所。
「………」
一度だけ目を瞑り。
水琴は一気に地を蹴った。