第27章 月の民の心の行方
「エース」
帰るか、と踵を返すエースの背に声を掛ける。
振り向くエースに水琴は首から下げていたペンダントの一つを外し差し出した。
鎖にぶら下がる赤い石が揺れる。
「これ。持ってて」
「いいのか?これお前の大事なものだって…」
「いいの。エースに持っていてほしい」
記憶がなくなってしまっても、女神としてこの街を見守る彼女のように。
少しでいい。彼らの中に残っていたかった。
かぐや姫の心がどこにいったのか。
今ならわかる気がする。
きっと、彼女もまた託したのだ。どうしようもない現実を前に、微かな願いを込めて帝へ不死の薬とともに。
違う時を生きる二人が。
いつかどんな形であったとしても、再び出会えるようにと。
「__分かった」
ペンダントがエースの手の中にそっと収まる。
「大事にしてね。記憶がなくなったからって、売っちゃ嫌だよ」
「__忘れねェよ」
冗談交じりにそう告げるとエースはペンダントを握りしめ返す。
「忘れねェ」
「………」
たとえ逃れられないことだったとしても。
そう言ってくれるのが嬉しかった。