第27章 月の民の心の行方
「あのね。ありがとう」
でも、これだけは伝えたかった。
「何が?」
「あの日、私を引っ張り上げてくれて」
「あれは別に…」
「ただの偶然だったとしても。エースがいたから、私はこの世界に来れたんだもん」
それ以外にも、エースに助けられたことはたくさんあった。
みんなの前で挨拶しなければならず狼狽える水琴を大丈夫だと勇気づけ。
町に降りるときは必ず声を掛けてくれ。
__異世界の民だとわかってからも、まっすぐ力強い声で、導いてくれた。
「エースがいなかったら、私きっとこんなに頑張れなかった」
「………」
「だから、ありがとう」
「___なァ」
視線は女神像に向けたままエースが呟く。
顔を向ければエースは一度口を開きかけ、再び閉じた。
静寂が二人を包む。
「エース……?」
普段と違う様子に思わず声を掛ける。
それにエースは答えず、何かを堪えるように目を閉じる。
沈黙は数秒。
「おれは。……おれたちは。
__水琴にとって、いい家族だったか?」
「………」
なんとなく、エースは別のことを言おうとしたのだとわかった。
それでも、ただそれだけを問うエースに柔らかな笑みを向ける。
「……当たり前だよ。
__エースは、みんなは。
私にとって最高の家族だよ」
「……そっか」
しばしの沈黙の後エースもまた笑みを浮かべる。
「___なら、いい」