第27章 月の民の心の行方
白く滲んでいく水平線を眺める。
延々と続くかと思われた宴は太陽が昇り始めるとともに終わりを迎えた。
それでも部屋に戻る気になれなくて、水琴は一人甲板で海を眺めていた。
こうやって海に囲まれる生活も、今日で終わる。
そういえば、と水琴は周りを見渡した。あたりには酔いつぶれたクルー以外人は見えない。
「……エース」
ぽつりと呟かれた言葉が誰に拾われることもなく空に溶ける。
挨拶の後一人一人に声を掛けていた水琴だったが、なぜかエースだけは見つけることができなかった。
誰に聞いても知らないと首を振られるばかり。
今夜には島へ向かう。そうすればゆっくり話す機会なんてもうない。
休む前に一目でいいから会いたいと探すものの、自室にもおらず途方に暮れていた。
「どこ行ったのかな…」
こつん。
ふと船の縁に小石がぶつかる。
なんだろうと顔を向ければ港に探していた姿が見えた。
「エース!」
「よう。降りてこられるか?」
「待って。今行く!」
クルーの間を縫い縄梯子へ駆け寄る。
もたもたとしながらもなんとか水琴は地面へ足をつけた。
「わりィな。休むところだったか?」
「ううん。それより、エースどこに行ってたの?探してたのに」
「あー、まァぶらぶらと」
それより、ちょっと時間あるか。と問われる言葉に一も二もなく頷く。
何とはなしに二人町のメインストリートへ続く道を歩き出した。
日の光に照らされた通りは人気がなく静かで、並べられた屋台や飾り付けが僅かに昨夜の祭りの名残を残していた。
「そう言えば、日中街を歩くのって初めてだなぁ」
「基本寝てたからな」
「だって、祭りが夜通しなんだもん。寝ないと体力持たないよ!」
たわいもない話をしながら気づけば二人は通りの終点、女神像の足元までやってきていた。
自然と足を止める。
「……帰るんだな」
「__うん」
ぽつりとエースがただそれだけを呟く。
水琴もまた言葉少なく返した。
あまり余計なことを言えば、エースに何か言われれば。
せっかくの決意が揺らいでしまう気がして。