第27章 月の民の心の行方
「___もう、みんな知ってると思うけど。
私は明日、元の世界に帰ります」
静かな夜に水琴の声が響き渡る。
「最初は、どうなるんだろうってそればかりだった。
全然知らない世界で、知らない人たちばかりで、
危ないことは日常茶飯事だし、挙句の果てには異世界の民だなんて海軍には狙われて。
……でもこんな得体のしれない私を、家族だって迎えてくれて、
私が船に馴染むよう、たくさんの人が手を差し伸べてくれて。
__この世界に来たのは事故だったけど、今は、あの日井戸に落ちて本当によかったって思う」
男のすすり泣く声が聞こえる。
つられないようにと腹にぐっと力を入れた。
「…元の世界に帰れば、記憶は消えてしまうけど。
みんなと過ごした日々は、私にとってかけがえのない宝物です。
__みんな、今まで本当にありがとう!!」
深々と頭を下げる。
その頭に大きな掌が重なった。
「__記憶は消えても、想いは消えねェ」
白ひげの声が響く。
「心に、身体に刻み付けた想いはそう簡単に消えやしねェ。
同じように生きる世界が異なろうと、俺たちが家族だという絆は消えたりなんかしねェ」
限界だった。ぽろぽろとこぼれる涙を隠すよう両手で顔を覆う。
「いつまでもめそめそと海賊が湿っぽくしてんじゃねェ!
__我らが末娘の新たな旅路に!!」
乾杯!!という合唱と共に高々とジョッキを打ち付けられる音が響いた。
あぁ。
出会ったのが、彼らでよかった。