第27章 月の民の心の行方
「帰らなきゃって、分かってるのに。
……記憶が消えちゃうって、聞いて。
それが嫌だって、なら帰りたくないって、思う自分もいて。
……私、どうすればいいんだろう」
「それは、相談かよい」
「相談…そうだね、相談かな」
「なら、そんなもんするだけ無駄だよい」
「無駄って……!」
突き放すような言葉に下げていた目線を上げる。
想像とは違う、いつもの眠たげな、それでいて優しい視線が水琴を見下ろしていた。
「ならお前は、俺が“帰るな”と言えば帰らねェのか」
「………」
「どうなんだよい」
問われ、軽く目を伏せる。
「……ううん。私は“帰る”よ」
「だろい。答えが決まっていることを相談する意味はねェ」
ここで帰らないことを選べる少女でないことを短くない付き合いで知っているマルコは、それでも彼女の葛藤を思いその頭に手を置く。
「お前はどうすればいいかなんてとっくに分かってる。
あとお前に足りないものは、覚悟だ」
相談には乗ってやれねェが、覚悟を決める手助けくらいはしてやるよい。
「……うん、ありがと」
無骨な、温かい温もりに涙腺が緩む。
零れ落ちそうになる涙をぐっと堪えて、水琴は笑顔で顔を上げた。
「__じゃあ、今夜はめいいっぱい付き合ってもらおっかな!」
「あーあー。わかったわかった」