第27章 月の民の心の行方
舞台はクライマックスを迎える。
彼女を無理やりものにしようと刺客を差し向ける有力者に立ち向かい、一対多数の大立ち回りを演じる青年、アーサー。
最後深手を負い、倒れてしまう彼に寄り添う女性。
彼を助けようと自らの命を神に差し出し女性は倒れてしまう。
そんな彼女の清らかな魂を神は女神へと導く。
この舞台の脚本・監修はローレンさんが行っている。
大まかなあらすじは同じだが、毎年飽きないようにと独自のアレンジや解釈が練りこまれているそうで、祭典のメインイベントということもありリピーターが絶えない人気作だそうだ。
彼は主役の二人にかつての自分たちを重ね合わせたのだろうか。
***
照明が付き、終わりを告げるアナウンスとともにあちこちで観客が立ち上がる。
水琴もまた強張った体をほぐすよう大きく伸びをすると、横に座る連れに笑顔を向けた。
「あぁ楽しかった!前評判の通り良い出来だったね。初めて伝説を知る人にもわかりやすかったし、終盤の殺陣なんかすごい迫力だったし!そう思わない?」
「………水琴」
同意を求める水琴の声とは対照的に低く静かな声が名前を呼ぶ。
眠たそうな目がじろりと水琴の方へ向いた。
「なに?マルコ」
「どうして俺を誘ったんだよい。他の奴らはどうした?」
いつもなら、エースやハルタと行くだろうがと問われ、水琴は沈黙する。
確かに水琴は年齢の近いエースやハルタと回ることが多い。
マルコと回ることもゼロではないが、一番隊隊長として忙しいマルコと陸へ降りることは滅多にない。
「…ちょっと、相談したいことがあって」
マルコなら、一番中立な意見をくれるかなって思って。と水琴はつま先を眺めしばし沈黙した。
幕の下りた舞台の周りでは片づけのスタッフがぱらぱらと動いている。
観客席にはもうほとんど人がいない。