第27章 月の民の心の行方
三日目の夜。水琴は件の舞台を観に劇場へと来ていた。
今夜も昨夜と同様混雑していたが、早い時間から待っていたこともありすんなりと座ることができた。
ブザーが鳴り、照明が落ちる。
目の前で繰り広げられる舞台を眺めながら、水琴は昨日聞いたローレンの話を思い出していた。
__生き延びてから、私は学者として伝説の研究を続けてきた。
様々な文献を調べていくうちに、女神もまた異世界の民である可能性が高いことが分かったんだ。
目の前では記憶を失い倒れている女性が島の若者に助けられるシーンが展開されている。
何もわからない彼女を、優しく介抱し手助けする青年。
時が経つにつれ親しくなる二人。女性の言葉がきっかけで、島が発展していく様子が繰り広げられる。
__女神を保護した青年の手記が見つかってね。それによると彼女は何とか元の世界に帰ったらしい。
だが……
そっと膝に置く年季の入った本を撫でる。
無理を言って貸してもらったその本には青年…アーサーの心の叫びが綴られていた。
最初はただの親切心だったこと。
次第に惹かれていったが、彼女はどうしても元の世界に帰らなければいけなかったこと。
仲間を連れなんとか化け物を撃退しながら彼女を泉まで導き、無事に帰すことができたこと。
…それから、次第に彼女の記憶が曖昧になっていったこと。
__私の推測だが、それぞれの世界にとってお互いの存在を“異質”と考える何か…
そうだな、世界の意思というべきか、世の理というべきか…
とにかく、世界をあるべき姿に修正しようとする何かによって記憶が失われるのではないかと思う。
__それを防ぐ方法は私にもわからない。もしかしたら記憶を失うのはこちら側の人間だけかもしれないし、そうではないかもしれない。
__…確かなのは、どれだけ悩もうが泉が開くときはもうすぐそこに迫っているということだ。