第26章 ローレン
「それから先の記憶は曖昧で、気が付けば私はこの島の路地で倒れていた」
「………」
「それから私は学者としてこの島の研究を始めた。その中で、異世界の民が泉を通る際に生まれる光が、血肉で狂った亡者の呪いを解くと知った。
あそこには私の仲間も囚われている。私は彼らを解放したい。
君が帰る方法を探していたのなら好都合だ。私に、協力させてほしい」
縋るように水琴を見つめる。
思った以上に壮絶な話に水琴はくらくらする頭を必死に立て直す。
「……お話は、分かりました。でも、一つ聞きたいことがあります」
「なんだい?」
「異世界に通じるのは百年に一度と言いましたよね?さっきのローレンさんの話だと彼女が帰ろうとしていたのなら、その年が百年に一度の年だったはず。
どうやって異世界と泉を繋げるつもりですか?」
水琴の当然の疑問にローレンは柔らかく微笑む。
「だから言っただろう。これは神のシナリオなんだと」
今年なんだ。
「今年が、ちょうど前の年から百年目。…祭典の最終日、泉は異世界への扉を開く」
「え……だって、ローレンさんは」
「言っただろう。異世界の民の血は万能薬に、肉は不老不死の秘薬に」
そう答えるローレンさんの瞳はただただ、優しかった。