第26章 ローレン
「異世界の民の血は、万能薬ではなかったんですか…?」
「彼女の血を少量使い実験したことがあるので癒しの力があることは間違いない。だがその力はあまりにも強く、人の理を歪めてしまうものだったんだ。
もはや船に逃げ帰ることもできない。せめて彼女だけでも元の世界へ帰そうと泉を目指した。しかし、亡者の数はあまりにも多かった」
肩に食い込む剣。確かに胸を貫いた銃弾。
泉を目の前に、ローレンはとうとう力尽き倒れた。
急速に失われる視界に影が差すのを感じる。
そこでローレンの意識は途絶えた。
「だが、私は息を吹き返したんだ」
「え……?」
「目を覚ますと、目の前に彼女が倒れていた。
胸はナイフで貫かれていて、その瞳からは完全に光は失われていた。
……彼女のそばにはナイフが転がっていた。彼女が自決したのは明らかだった。
彼女は最後の力を振り絞って私に血肉を与え、助けたんだ」
傷一つない身体。
血まみれの彼女。
助けたかったのに助けられ、呆然とローレンは立ち尽くした。
死した彼女の肉体すら辱めようと群がる亡者を振り払い、彼女の亡骸と共に泉へ沈んだ。
自分もあのような姿になるかもしれない。そうなるくらいなら、人として彼女と眠りに就きたかった。