第26章 ローレン
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「始まりは、そう。一人の女性を保護したことだった。
私は各島を回り商売をしていたんだが、そのうちの一つで浜に倒れている女性を見つけたんだ。
最初は難破船から流れ着いたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。
話を聞いているうちに、彼女がこの世界ではない別の世界からやってきたことが分かった」
最初は半信半疑だった。異世界の民なんておとぎ話本気で信じている者などいなかったし、
我々を騙して積み荷を掠め取ろうとしているのではと警戒していた。
しかし共に過ごすうちにそんな警戒心は溶けてしまって、船のみんなが彼女に夢中になっていた。
そんな不思議な空気を持った女性だった。
「調べているうちに、この島の離れ小島に百年に一度異世界へ通じる泉があるという噂を聞きつけ、私たちは彼女を元の世界に帰すためにこの島を訪ねた。しかしその離れ小島は化け物の巣窟になっていたんだ」
「……それは、」
「君も知っているかな。異世界の民の血は万能薬に、肉は不老不死の秘薬になることを。
私たちも異世界の民について調べているうちにそれを知った。もちろん、それを実行に移そうとする者など一人もいなかったが、欲に溺れる人間もいる。
きっと過去の誰かが犠牲になったのだろう。泉のある小島には、異世界の民の血肉を喰らい魂を歪めたもので溢れていた」
暗闇に立つ虚ろな影。
光を失い、人であるのに人ではない何かに変えられてしまった彼らはかつての姿を取り戻そうとするかのように生者へと狙いを定める。
「知らずに足を踏み入れた私たちは、それらと無防備に対峙した。
まるで、死人のような冷たい肌と目をした亡者が我々を見つめ、
__そうして、訳が分からないうちに数人が犠牲になった」
「……っ」
次々と仲間を襲う『それ』を咄嗟に銃で撃ち殺した。
しかし、それは数秒の時をおいて再び再生し、立ち上がった。
それを皮切りに、あちこちで咆哮と、悲鳴が上がった。