第26章 ローレン
教えてくれたスタッフに礼を言い、水琴は一つの扉の前に立っていた。
「…ここかな」
水琴の世界を知るかもしれない人がこの先にいる。
この世界にきて二度目の大きな手掛かりに一つ息を吐き、水琴はノックした。
どうぞ、という落ち着いた声にノブを回す。
部屋に入る水琴を深い茶色の瞳がじっと見つめた。
「……君は?」
「突然すみません。ローレンさんですか?」
「いかにもそうだが。今日はもう仕事はないと思ったが?」
「お疲れのところすみません。私は水琴と言います。観光で立ち寄ったんですが、この島の伝説に興味があってお話を伺いたくて…今、少しだけ時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「かまわないよ。特にすることもないし、日が昇るまではだいぶ時間がある」
手で着席を促され近くの椅子に座る。
ローレンもまた向かい合うように椅子に座る。
「それで、何が聞きたいのかな?」
「………」
尋ねたはいいが、水琴は何と切り出せばいいかしばし黙った。
どうして異世界の民と結びつけたのか、そこを聞きたいのに過去の科学者との出来事が口を重くする。
もし、またあんなことになったら……
冷たくなる拳に力を入れる。
「………」
そんな水琴にローレンは問いかけることもなくじっと黙って切り出されるのを待っていた。
その瞳には理知的で、年齢に相応しい思慮深い光が浮かんでいた。
この人はきっと大丈夫だ、と水琴は僅かでもこの人を貶めるような想像をしてしまったことを恥じた。
「__頭がおかしいと、思われるかもしれませんが」
そして水琴は話し始めた。
この世界に来てからのことを。
それを自分から打ち明けるのは白ひげの皆以外では、初めてのことだった。