第26章 ローレン
「俺の部下が観たらしいんだが、なんでも水琴の世界の手がかりを知ってるやつがいるかもしれないんだと」
「……え」
思わぬ情報に水琴は目を見開く。
狼狽える水琴に代わってハルタが一歩前に出た。
「ちょっと、それってどういうこと?伝説が水琴の元の世界の話と似てるって話は昨日聞いたけどさ、それとは違うわけ?」
「今日の劇を監修した学者がいるらしい。そいつは伝説研究の第一人者で、劇もそいつの仮説が題材に使われているんだとさ。それで最後に挨拶があったらしいが、女神の正体は異世界の民だったんじゃないかって言ってたそうだ」
「なにそれ。いったい何の根拠が?」
「さァねェ。そればっかりは確かめてみなきゃ分からないな」
「わざわざ息抜き中の今行かなくてもいいんじゃない?」
最近の水琴の様子を知っているハルタはその心情を想い情報の真偽を確かめることに対して消極的だった。
ついさっきまで楽しく過ごしていただけに水を差したイゾウをじろりと睨む。
だがイゾウはそんなハルタを一蹴した。
「そうさな。だが万が一のこともある。知らずにこの島を出て後悔しないってんならそれでもいいさ」
さぁ、どうする?とイゾウの静かな瞳が水琴を見返す。
「……行く」
「そうかい」
水琴の答えにイゾウはただそれだけ答える。
「その人はどこにいるの?」
「まだ劇場の控室じゃないか」
「俺も一緒に行くよ」
「ううん、ハルタは先に戻ってて。この子部屋に置いといてくれないかな?」
ついて行くと言ってくれたハルタにテディベアを託し、水琴は二人に別れを告げる。
去っていく小さな背中を見送りハルタは溜息を吐いた。
「……なぁんでこういう日に限ってなんだろうね」
「さァな。それこそ女神さまのお導きかもな」