第25章 最古の物語が紡ぐもの
そこにはその女神を表しているのだろう、一体の女性の像が置かれていた。
やや高い場所に設置されたその像は慈愛の瞳で祭典を楽しむ人々を見つめている。
「月と女神を崇める祭典。夜しか催されないってのは、それが理由かもなァ」
「なるほどねェ」
街頭にも負けない、けれど柔らかい月明かりを見上げ、ハルタは納得したように呟く。
「俺はまた、祭典の裏で何か良からぬことでもやってんのかと思ったよ」
「お前のその物騒な思考回路はどうにかならないのか」
「えー。だって夜限定って言われたら普通そう思わない?」
「ま、確かに夜だけってのも珍しいわな」
イゾウ、ハルタ、エースの言葉を耳に入れながら、水琴は女神の像を見上げる。
月と、女神。
多くの男性に求婚された、月の民。
「似てるなぁ」
「何が?」
思わず口から零れてしまっていたのだろう。小さな呟きを隣にいたハルタが拾い首を傾げる。
「私の国にもね、似たような伝説があったんだ。って言っても、キーワードだけだけど」
「へー。どんなの?聞きたいな」
「えっとね…」
興味を示したハルタと、言葉には出さないが同じ意見だろう残りの二人の視線を受け水琴は最古の物語を思い出しながら語る。
竹の中から生まれ、人とは異なる時の流れであっという間に成長するかぐや姫。
その美貌を聞きつけ、妻にしようと求婚に来る五人の貴族達。
それを無理難題を言い断る姫。
「その噂を聞きつけて、遂に帝…えっと、王様?みたいな人がかぐや姫に会いにやってくるの。けど、それもかぐや姫は断る」
やがて、月を見て毎日泣く姫に育ての親は訳を尋ねる。
「かぐや姫は“もっとここにいたいけれど、自分は月の者だから、もうすぐ帰らないといけない”って両親に言うの。それを聞いた二人は帝に言って、かぐや姫を守ろうとするんだ」
迎えに来る月の使者を追い払おうと、かぐや姫の周りを守るたくさんの兵達。
けれど、現れた月の使者に兵達は戦う気力を奪われ、立ちつくしてしまう。
それでもかぐや姫はもう少し時間が欲しいと懇願する。
そんなかぐや姫に月の使者は天の羽衣を被せる。
羽衣を纏ったかぐや姫は心を亡くし、使者と共に月へと帰っていく。