第25章 最古の物語が紡ぐもの
水琴はいつも通り振る舞っていたつもりだったが、そんな取り繕いでどうにかなるほど彼らとの付き合いはもう浅くはなかった。
「なんか、無駄に空気を掻きまわしてしまってごめんなさい…」
「なァーに言ってんだ!水琴ちゃんが謝る様なことじゃないだろ。悩みなんて誰だってあるんだからよ」
にっとサッチが子どものような笑顔を浮かべる。
「だからこそ気晴らしが必要ってな。この五日は船番はしなくていいから、好きに遊んでこいよ」
「サッチ……」
飾らない優しさに思わず涙腺が緩む。
あぁ。私はいつもみんなの優しさに助けられている。
「……ごめんね」
「それは受け付けねェな。こういう時は?」
「……ありがと!」
笑顔で告げる水琴によし、とサッチは満足げに頷く。
「そろそろ上陸だ。甲板へ行けば見えるんじゃないか?」
「そうだね、行ってくる!」
気を付けていってこいよー、と手を振るサッチに見送られ、水琴は甲板へ向かった。
***
陸地ではサッチの言ったように、島全体がお祭りムードだった。
「この祭典はこの国の開国当初からあるらしい。なんでも何も無かった貧しいこの島に一人の女性が知識と技術を授け、今のような一大紡績産業国へとのし上げたんだと」
あちこちで配られている祭典の成り立ちが書かれたチラシに通しながらイゾウは共に歩く仲間に説明する。
「紡績?」
「繊維を糸にすることさ」
「だからあちこちで織物が売られてんのか」
感心するように辺りを見回すエースにつられ道の両脇に連なる屋台を見る。
そこではスカーフ、ケープ、絨毯などありとあらゆる織物が色とりどりに並んでいた。
「島を潤したその女性はとても美しかったらしくてな。男どもがこぞって求婚を申し込むがことごとく振られるらしい。「自分は月の国の者で、誰かと結ばれることは決してない」って断ってな。そうしていつのまにかその女性は姿を消した。
__伝説によると、その女性はこの島の守護神で、今もこの島を見守っているとか」
それで、この祭典な。とイゾウは辿り着いた道の終点を見上げる。