• テキストサイズ

【ONEPIECE】恵風は海を渡る【エース】

第24章 託された想い







 __この手紙を読んでいるということは、貴方も特異な体験をした一人なのだろう。


 __このような形でとは言え、この遠い地でこのように巡り合えたことを私は感謝したい。


 
 出来れば生きている時に会いたかった、と水琴は思うがその願いは永遠に叶うことはない。

 せめてこの書き手の想いを正面から受け止めようと、水琴は目を走らせる。


 その先には銀蔵の体験について簡単に記されていた。


 大雨の日、増水した川で子どもを助ける際、足を滑らせて流されたこと。

 死んだと思っていたが、気がつけば故郷の面影を残すこの地で目覚めたこと。

 帰る方法も分からず途方に暮れていたが、たくさんの幸運と努力で家族と穏やかな生活を手に入れたこと。



 __この地に骨を埋めることを、私は後悔していない。だが、未練があるとすれば故郷に残したたった一人の妹のことが気がかりだ。


 __あれはふらふらとする私をいつも支え、見守ってくれた。


 __早く嫁に行けと急き立てる私を笑い飛ばしていたあの子は、私がいなくなった後どうしていただろうか。


 __家族に囲まれ、幸せな気持ちが胸を満たすたびに片隅にやり場のない罪悪感が浮かんだ。




 __これがただの自己満足だと知っている。だが、少しでも哀れに感じたのならば、友よ。この老いぼれの願いを聞いてほしい。



 すらすらと滑らかな文字が僅かに乱れる。



 __もしも、貴方が帰る方法を知っているならば。もしくは、まだ帰ることを諦めていないのならば。


 __同封した手紙を、妹に渡してほしい。


 __あの子にはたくさん苦労を掛けた。背負わなくていい物を、背負わせてしまった。


 __突然消えた私のことを、もう忘れているのならばそれでいい。しかし少しでもその心に影を落としているのならば、この手紙で教えてやってほしい。


 
 __感謝と、謝罪を。


 __愛するたった一人の妹に。







 日付と署名で、手紙は締めくくられている。



 読み終え、水琴はそっとその手紙を胸に抱いた。




 「……確かに、受け取りました」



 ぽつり、誰にともなく呟き目を閉じる。









 まぶたの裏に、見たこともない二人の兄妹の姿が浮かんだ気がした。


/ 1122ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp