第2章 始まり
「どうした?」
「あ、えっと…隊長さんってこれで全員なんですか?」
水琴の動揺には気付かなかったらしいエースは輪を見渡し同じように首を傾げた。
「そういや…マルコがいねェな」
「マルコ…さん?」
「おォ。あ、丁度戻ってきた。おーいマルコ!」
見れば人込みの中から特徴的な髪形…失礼、容姿がこっちへ歩いてくるのが見える。
「どこ行ってたんだよ。紹介するって言っただろ」
「お前と違って忙しいんだよい。で、お前が水琴かい?」
じろりと見られ心臓がどきりと跳ねる。
「は、はじめまして。水琴と言います」
「話は親父から聞いてるよい。災難だったな。親父が許可したからには客人だ。ゆっくり寛ぐと良いよい」
「は、はい!」
…あれ。意外に良い人だ。
いや、漫画で情に篤い人だっていうのは知ってたけど、余所者に対してはもっときついのかと思ってた。
少し覚悟をしていただけに、拍子抜けする。
「さて、水琴。そろそろ他のクルーどもが痺れ切らす頃だ。用意はいいかよい」
気が緩んだ瞬間、マルコの言葉に本来の目的を思い出す。
…そうだ、挨拶。
少し空気に馴染んだとはいえ、やはり緊張する。
再度主張し始めた心臓の音に飲まれる前に、背中をばしんと叩かれる。
「頑張れよ!」
「…は、はい!」
にかっと笑うエースに勇気づけられ、水琴は先を行くマルコの背を追った。
辿り着いたのは甲板の中央部。
「グララ、やっと来たか水琴」
「遅くなってしまってすいません」
「気にすんな。随分馴染んだみてェじゃねェか」
グラララ!と笑った白ひげが盃を置きゆっくりと立ち上がる。
「聞けェ!!野郎ども!!!」
先程まで賑わっていた甲板が一気に静まり返り、船長の言葉を待つ。
「聞いてる者もいるだろうが、今日から新たに客人が加わる。
名は水琴。異世界からやってきた」
「異世界……」
「あれだろ、エース隊長が引っ張り出したっていう……」
「すげェ…なんでもありだなグランドライン……」
予想していた通り、異世界という言葉にざわめきが広がる。
そこから戸惑いの空気を感じ取り、水琴は緊張と同時に不安を覚えた。