第22章 小さな家族
「__エース、一つ聞きたいことがある」
水琴と二人、モビーディックの食堂で朝食をとっていたエースはふらりと寄ってきたサッチの言葉に顔を上げた。
「なんだよサッチ」
「お前最近食糧庫荒らしてねェだろうな」
「はァ?」
予想していなかった言葉にエースは怪訝な表情を浮かべる。
突然食糧荒らしの疑いを掛けられたら誰だってそんな反応をするだろう。
「なんでそんな話になんだよ」
「いやァ最近料理長がよ…」
エースの言葉にサッチは料理長から聞いた報告を伝える。
なんでも、ここ最近食糧庫の荷物が食い荒らされているというのだ。
最初見つけた時、ネズミかと思って罠を仕掛けたりもしたが効果なし。
念のためと鍵を付けても結果は同じだった。
「で、もしかしたらエースなんじゃないかと」
「だからなんでそこでおれなんだよ!」
「お前ロギアだろ?鍵付いてたってすり抜けられるじゃねェか。こう鍵穴からスルッと」
「すり抜ける前に扉が燃えるに決まってんだろ!」
「それもそうか」
真剣にエースの仕業と思っていたわけでもないらしいサッチはエースの反論に呆気なく主張を引っ込めた。
「何か入り込んだのかなぁ」
今までずっと成り行きを見守っていた水琴は会話が途切れた間にぽつりと呟く。
モビーディックに乗り込んでからというもの、海賊船であるにもかかわらずそういった話を一度も聞いたことがない水琴はどこかに潜んでいるかもしれない何かに眉を潜めた。
「まァそういうことだからよ。もし何か不審な物音とか聞いたら教えてくれ」
「分かった」
それだけ告げサッチは去っていく。
「早く見つかるといいね」
「別に放っとけばいいだろ。ちょっと食いもんが荒らされるくらい」
「やだよ!もしそこから病気とか流行ったらどうするの!」
それによく分からない物が荒らした食糧を食べるというのも気味が悪い。
料理長のことだからそういうものは使っていないと思うが、それでも気分の問題だ。
「食事中に聞くんじゃなかった…」
「あ、もういらねェなら残り貰うぞ」
まだ少し残っていた料理へエースが手をつける。
変わらない様子のエースに逞しいね…と水琴は力なく呟いた。