第21章 記憶の中の赤
「確か小学校に入る前くらいだったかなぁ」
「しょうがっこう?」
「7歳から通う義務教育施設。だから多分…5~6歳くらいだったと思う」
船への道を歩きながら水琴は当時のことを思い返す。
少し肌寒い日で…そうだ、確か幼稚園で卒園式の練習をしていた時期だった気がする。
「私が施設出身って話はしたでしょ?当時両親がいないことは私にとって普通だったからなんとも思ってなかったんだけど、やっぱり周囲にとってはそうじゃなくてね」
それは何気ない友達の一言だった。
__水琴ちゃんなんでお母さんいないの?
__可哀想だよ。みんな言ってるよ。
可哀想。
初めてその言葉を向けられた水琴にとってそれは衝撃だった。
それと同時に周囲と自分が違うことに気付いた。
友達にはお父さんお母さんがいるけど、私にはいない。
友達は当たり前に知っている両親の温もりを、私は知らない。
今まで何とも思っていなかったのが、友達のその一言と眼差しで一気に惨めに思えて。
気が付けば施設に帰った後庭の隅で泣いていた。
そしてあろうことか心配で様子を見に来たシスターに当たり散らして家を飛び出した。
「…それで迷子か?」
「うん。聞いた話だと公園で足を滑らせて池に落ちたって」
まだ寒さの残る季節だ。助けてもらえなければきっと凍え死んでいただろう。
「それで助けてくれた人のところに少しお世話になって、その人に言われてシスターと仲直りしたの」
と言っても、まるっきり覚えていないので全部シスターから聞いた話なのだが。
「その時にね、もらったんだ」
前後の記憶ははっきりしないがそこだけは覚えている。