第21章 記憶の中の赤
最近はあまり見られなくなった、彼女の遠慮がちな笑み。
嫌な予感がして足を水琴の部屋へと向ける。
少し確認するだけと軽く扉を叩き様子を見るが返事はない。
「水琴ちゃん?」
寝ていたら謝ろうと思い扉に手を掛ければそれはあっけなく開いた。
がらんとした室内にあーあと空を仰ぐ。
「やっちまった」
悪い予感ほど当たる物である。
***
ライトで地面を照らしながら水琴は一人夜道を歩いていた。
小さくなる船の明かりに罪悪感を覚えながら、それでも戻ろうとは思わない。
サッチにはああ言ったが、明日見つかる保証はどこにもない。
昼過ぎにはこの島を出て行ってしまうのだ。探す時間は多い方がいい。
それにどうせ気になって眠ることなどできないのは分かり切っていた。
逸る気持ちに押されるように町中へ入る。
昼間とは異なる夜の空気に一瞬怖気づくが、もし拾われたらきっと返ってはこないだろう。
勇気を出して一歩を踏み出す。
幸い営業中の店は多く通りは明るい。これなら地面も十分見えると水琴は地面を見ることに集中する。
昼間辿った道を戻りながら店を覗く。
もう閉まってしまっていた店もあるが、それは覚えておいて見つからなければ明日見に来ようと店の場所だけ確認していった。