第21章 記憶の中の赤
自室はもう何度も探した。
船内は?私はどこを歩いた。食堂、甲板、通路、資料室…
あぁなんでもっと早く気付かなかったんだろう。
ペンダントの感触はあったため油断していた。
じわりと浮かぶ涙に諦めるのはまだ早いと部屋を飛び出す。
どうかありますようにと願い掛けるように残ったペンダントを握りしめた。
「あれ?」
食堂へ向かう道の途中、見知った小柄な影がクルーと話しているのを目にしサッチは思わず声を漏らした。
風呂へ行くと言って別れてからずいぶん経つというのに、彼女の姿は別れたときそのままだ。
何かあったのだろうか。
気になったサッチはクルーに手を振り離れるその後ろ姿に声を掛けた。
「水琴ちゃん」
「あ、サッチ…」
「どうした?風呂行くんじゃなかったのか?」
「それが……」
へにゃりと眉が下がる。弱弱しい声からだいぶ参っていることが伺えた。
「どこかでペンダント落としちゃって…」
「ペンダント?」
見れば水琴の胸元には一つしかペンダントがない。
大方風呂の準備をしている最中に気付いて探しに飛び出したのだろう。
「サッチどこかで見なかった?」
「いや、見てないな」
「そっか……」
やっぱり外かなぁと呟く。
「船室はもう見たのか?甲板は?」
「観光から戻ってから寄った場所は全部見たよ。昼にはあったのに…」
「外はもう暗いから明日探すしかないなァ」
昼間は治安が良くても夜もそうとは限らない。
誰かと探しに出たとしてもあんな小さなペンダントが暗闇の中で見つかるとは思えなかった。
「明日船出る前にもう一度島に降りればいい。一緒に探してやるよ」
「でもサッチ、仕事はいいの?」
「明日やることはほぼないからな」
だから今日はもう休みなと伝えればうん…と渋々頷き控えめに笑う。
「__ありがとうサッチ」
「どう致しまして」
また明日な、と言って別れる。
食堂に寄り酒とつまみを少々調達して戻る途中、ふとサッチは先程の水琴の笑みを思い出していた。