第21章 記憶の中の赤
「昔ね、私迷子になったみたいなんだけど、その時に保護してくれた人がくれたんだ」
「覚えてねェのかよい」
「ずっと昔だもん、顔も覚えてないよ!でも、なんだか嬉しかったんだよねぇ」
ほわりと相好を崩す様子に一瞬皆黙り込む。
蕩けるようなその表情はただの思い出を語るには甘すぎた。
「………」
「あれ、どうしたのみんな?」
「いやいや別になんも!あーほらエース!メシ来たぞメシ!早く食えよ!」
少し不穏な空気を醸し出しつつあった末っ子に料理を押し付けサッチは水を頼む。
その後一気に運び込まれた料理にその場の空気も元に戻りつつあった。
「それじゃあどうする?」
「あ、でも小物は見たいなぁ。ちょっと覗いた感じアクセサリー以外もあるっぽいし」
みんなは?と問い返せば次々と予定が返る。
「それだけ回るんならそろそろ出るか。明日は昼過ぎには出るしな。時間がねェよい」
「じゃあ早く行こう!」
「張り切るねー」
「だってこんな治安良い島久しぶりだもん!」
わいわいと騒ぎながら店を出る。
久しぶりに羽を伸ばせると水琴はたいそう上機嫌だった。
***
「うそ………」
自室で水琴がこの世の終わりのような声で呟く。
そこには昼間の楽しげな様子は微塵もない。
「ない」
ベッドの上に散乱するのは寝巻とバスタオル。
一日の疲れを癒そうと風呂の準備をしていた水琴はペンダントを外そうとしてその鎖が一つしかないことに気付き息を呑んだ。
血の気が瞬時に引いていく。同時に動悸がし始め、指先は戸惑うように震える。
落ち着け。落ち着け大丈夫。
動揺する自分を必死に宥めながら水琴はぐるぐると今日一日を振り返り落とした可能性の高い場所を思い返す。