第20章 赤髪
常識破りの新世界の海だが、モビーディック号の航海は比較的穏やかだ。
そんな船内を、今日は珍しく慌ただしい雰囲気が包んでいた。
「ねぇねぇハルタ」
落ち着かない食堂で、隣に座ったハルタの服を水琴が引っ張り囁く。
「今日って何かあるの?なんかみんなの様子が変なんだけど」
「あー、水琴聞いてないんだ?なんかね、今日お客が来るらしいよ」
「お客?」
聞き慣れない言葉に水琴は首を捻る。
長いことこの船に乗っているが、お客が来るのは初めてだ。
「誰が来るの?」
「昔から馴染みのある海賊。水琴は危ないから甲板には出ないようにね」
危ないってどういうことだ。そんな危険人物が来るんだろうか。
ハルタののほほんとした物言いではそんな感じはしないけど…
白ひげクルーはそうでもないが、やはりまだ他の海賊には慣れないので大人しく部屋にいることにする。
けれど…
「暇……」
隊長クラスはほとんどがその“お客様”の対応のせいで忙しくしている。
他のクルーたちもどこか落ち着きがない中、暇つぶしに付き合わせるのも申し訳なくて。
水琴は部屋でごろごろと時間を潰していた。
「……誰が来るんだろう」
親父さんの馴染みの海賊なんて、ゴール・D・ロジャーくらいしか思いつかない。
もしかして傘下の誰かだろうか。
想像していると廊下が騒がしくなる。聞こえてくる声からどうやらお客の船が近づいてきたようだ。