第19章 二つの正義
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「水琴ちゃーん!無事?!」
甲板に着くと真っ先にサッチが飛び出してきた。
「はぐれたって聞いたから驚いたのなんのって…変な奴らに絡まれなかったか?」
「うーん、ちょっと、ね…」
曖昧に笑う。エースの方を見れば微妙な表情を浮かべていた。
海軍大佐を助けたと言ったら、ちょっと面倒なことになりそうなので黙っておくことにする。
「親父!島で海軍がうろついてる。早いとこ出た方がよさそうだ」
「もう準備は出来てる。野郎ども!出航だ!」
白ひげの一声で瞬く間にモビーディックは港を離れていく。
段々と小さくなる島を水琴は甲板から見つめていた。
「海賊だから、か…」
スモーカーの言葉を思い出し、ふっと目を細める。
「もし私が海軍に拾われてたら、仲良くなれてたかなぁ」
ありえたかもしれない可能性の一つを思う。
海賊とは異なる、それでもまっすぐな正義を持つ彼らと共に歩む道も、もしかしたら面白かったかもしれない。
「……おい」
いつの間にか隣にエースがいた。
むすっとした顔を見ると、さっきの呟きを聞いていたのだろう。
「残りたかったのかよ」
「まさか」
ふふ、とエースを見上げる。
「私の家族は、白ひげ海賊団《みんな》だから」
ありえたかもしれない可能性なんて、考えるだけ意味がない。
今、私はここにいる。
それで十分。
「迎えに来てくれてありがと、エース」
「あんま心配掛けんなよ」
こつん、と頭を小突かれる。
はーい、と返事をして水琴は再び島に目をやり、背を向けた。
海軍と海賊。
異なる二つの正義は、決して交わることはないが、きっと、最も近くに存在する平行線。