第19章 二つの正義
怪我がないことを確認して、ようやくエースはほっと表情を緩めた。
「悪ィ、おれが手を放したばっかりに…」
「ううん。私がちゃんと掴んでおかなかったから…」
「……さっきから、邪魔ばかり入りやがって…」
ぬらり、と炎の中ギャリーが立ち上がる。
「てめェか。水琴を攫おうとした奴は」
「お前も死ぬか」
「エース気を付けて!そいつ毒を使う!」
「おォ!」
水琴の言葉を背に受けエースが駆け出す。
再びぶつかり合った二人を余所に水琴はスモーカーの容態をみる。
まだ荒い息をするスモーカーにほっと胸を撫で下ろした。
「女…今の、炎は」
「黙って」
近くに転がっていたナイフを手に取り、意を決して指を傷つける。
ぷつり、と皮膚が破ける痛みと共に赤い血が流れ出した。
かなり深く傷つけたため、思っていたよりも血が勢いよく溢れだす。
その指を、躊躇なくスモーカーの口に突っ込んだ。
「んぐっ?!」
「舐めて」
「てめ、何を…?!」
「いいから、舐めて!!」
ごくりとスモーカーの喉が上下する。
どれくらい血を与えればいいのか分からないが、たった一滴であの効果だったのだからあまり与えすぎるのも良くないかもしれない。水琴は嚥下したのを見届けるとすぐに指を抜いた。
気のせいか、先程よりもスモーカーの呼吸が穏やかになった気がした。
「……何の真似だ」
目にも入ったのだろう、視線が定まらないスモーカーの目が水琴を睨む。
「名前、言ってませんでしたね」
私の名前、水琴です。
「水琴、だと……」
「黙っていてごめんなさい」
背後で大きな爆発音がした。
きっと決着が付いたのだろう。