第19章 二つの正義
「おー、こりゃまた」
「8000万か。すげェ額だな」
所変わって食堂にて。
机に突っ伏し項垂れる水琴と、それを取り囲むように席に着くクルーたち。
その中心には先程の紙が置いてあった。
「とうとう水琴も賞金首かよい」
「嬉しくもなんともないんですけどっ!」
だんっ!!と机に拳を叩きつける。
「なんで私が……」
「そりゃああれだけレビールで喧嘩売ればなァ」
「喧嘩売ってないもん。買ったんだもん…」
「海軍からしちゃ一緒だろ」
「うぅ……」
再び机に突っ伏す水琴の頭を近くのクルーがぐりぐりと撫でる。
「だけど、なんだよこの扱い…」
エースが手配書の文字を見て眉を顰めた。
そこには本来ある“Dead or Alive《生死問わず》”ではなく、“Only Alive《生け捕りのみ》”の文字。
「水琴のこと異世界の民として利用する気満々じゃねェか」
ふざけんな、と低い声で呟く。
他のクルーも声には出さないものの同じことを考えていた。
つい先日のレビールでの一件以来、水琴が自分はこの世界では異質だということを気にしているのは知っていた。
だからこそ、海軍が水琴を物のように扱うことが許せなかった。
水琴は仲間で、家族だ。
異世界の民なんて関係ない。
突っ伏したまま、傷ついているであろう彼女になんて声を掛けようかと一瞬沈黙が生まれる。
「なんで、こんな……」
水琴の痛々しい呟きが漏れる。
「これ絶対泣き喚いた後の写真だし!目なんて真っ赤で顔ぐちゃぐちゃなのにこんな写真が全世界にばら撒かれてるとか信じられない!」
「「「いやそっちかよ?!」」」
「何言ってんのみんな!女の子にとってこれ以上重大なことはありません!」
「いや、お前の場合はもっとあるだろ!」
「初めての賞金でこの額とか!生け捕りのみの意味とかもっと考えろよ!」
「えー…あ!いきなり殺される確率減ったね!」
「ある意味尊敬するわその前向きさ…」