第106章 穏やかな日常と不穏な陰
「それって能力者を捕まえて自軍に加えるってことでしょ?そんな簡単に言うこと聞くかな」
自身のことはさておいて、悪魔の実の能力者など一癖も二癖もある人間ばかりだ。
何か利害の一致があるならばともかく、傘下に下れと突然言われてはいそうですかと従うものだろうか。
「普通は無理でしょうね。ですが事実、ここ数年でこの島を訪れた能力者の何人かは行方知れずとなっています。そのほとんどが海賊で、そのどれもが治安を名目に出動した将軍によって討たれています。ですがその後海軍へ引き渡された記録はなく……」
「何らかの形で取り込まれてるって考えた方がいいかもしれないってことか」
気味悪いな、とキールが顔をしかめるのにただの考えすぎならばそれで良いのです、とフランは続ける。
「ですが、なるべくならこの島では能力を使わない方がいいと思います。何かあってからでは遅いですから」
「そっか……」
フランの助言に水琴は風を生む手を見つめる。
フランの言う通り、ただの考えすぎであればいい。だが、そうでは無い可能性が万に一つでも存在するならば、将軍との衝突を避けるためにもこの力は隠しておいた方が良さそうだ。
不意に思い起こされる。遠い砂漠の地。
異世界の民を狙うあの冷たい眼光が、足下がさらさらと崩れ去っていくような恐怖と共によみがえる。
もう、あんな目を向けられるのはゴメンだ。