第106章 穏やかな日常と不穏な陰
角を曲がり別の通りを進んでいくと次第に緑が増えてくる。
自然と文化の調和がテーマだというその通りは、樹木の成長を阻害しないような建築の工夫がされているのだという。確かに見ていると建物よりも木々の方が幅を利かせている印象で、中には枝を通すためだけに設計されたとしか思えない窓枠や根を傷つけないために配慮されたデコボコの階段なども見られた。
かと言えば大きく分かれた根の間をトンネルにしたり、木々を利用した休憩所や遊具があったりと、なるほど調和とはよく言ったものだと感心しながら水琴は散策を楽しんでいた。
おそらく公園として機能しているだろう辺りに差し掛かった時だった。二人の少年が何やら木を見上げ騒いでいるところへ出くわした。
「どうしたのですか」
「あ、フラン」
「コイツがあれ引っ掛けちゃったんだ」
フランを振り向きながら一人の少年が指さす先には飛行機の模型が見事に頭から枝に突っ込んでいる。
模型は大人が手を伸ばすだけでは届かない微妙な位置に突っ込んでいた。飛ばすにしてももう少し場所を考えれば良かっただろうに、少年たちには考えが及ばなかったようだ。
「あれくらいひと登りすりゃ訳ねェだろ」
「ダメなんですエースさん。この辺りは不必要に木々を傷めないために人が手を加えた木々以外は手を触れてはいけない決まりなんです。同じ理由で飛行物も禁止されているはずなんですが」
フランが少年たちに目をやればバツが悪そうに黙り込む。どうやら新しく手に入ったおもちゃを早く試したくて仕方がなかったらしい。
「んな事言っても登らなきゃ取れねェだろ」
「いいよエース私が取るよ」
このまま模型が引っかかっているのを他の誰かに見られればルールを犯した少年たちは怒られてしまうだろう。忍びなく思った水琴は模型に向かって手を緩く伸ばした。
途端に生まれた風は模型を持ち上げ、葉を散らすことなく木々から解放する。
手元に浮かぶ模型を大切に掴むと、水琴は少年たちへそれを差し出した。