第106章 穏やかな日常と不穏な陰
「フラン、あそこは何?」
「あれは無料開放されている美術スペースです。画家の卵や学生たちの作品が展示されていることが多いですが、有名作品の模造品が展示されていることもあります」
見ていかれますか?と問われ頷く。
美術館など学校の行事でくらいしか行ったことがないが、この世界ではどんな美術品があるのが興味があった。
他のメンバーも異論は無いようで、全員でスペースに入る。四方の壁には窓がなく、その全てが作品でビッシリと埋め尽くされていた。だからといって薄暗く狭苦しい印象は受けず、広く取られた天蓋から差し込む光が柔らかな空間を演出していた。
「こんなに日光が当たっても大丈夫なものなのか?」
「絵画には全て作品保護の為に透明な塗料を塗っているので。このスペースで展示する分には問題ありません」
デュースの質問に答えるフランの説明を聞きながら水琴は作品を見て回る。
穏やかな田園風景。
湖畔で遊ぶ子ども達。
広場で語り合う住民。
芸術など良く分からない水琴だったが、繊細な色遣いで描かれたそれらの絵は水琴の心をほっと和ませた。
それは他の人にとってもそうなのだろう。寄り添う老夫婦が穏やかに微笑みながら作品について語りあっているのを見て、水琴の心も温まるのを感じた。
「こういうのが何千万もすんのか。不思議だな」
「いいか。絶対に傷つけるなよ。絶対に」
「お前こそ刀気をつけろよ」
静かに感動に浸っている水琴だったが、背後から聞こえてくるエースとキールの牽制し合う声にどうにも入り込みきれず苦笑いを浮かべる。視線を作品から外せば、何やら難しい顔で作品を見つめるダグが目に入った。
「ダグ、どうしたの?」
「__いや」
絵を黙って見つめていたダグは水琴の問いかけに首を振った。
「ただの勘違いかもしれん。気にしないでほしい」
「そう……?」
水琴からするとただの綺麗な絵だが、ダグからすると何か思うところがあるのだろうか。
気にするなというダグの言葉に水琴も深く追及はせず建物を出た。