第105章 芸術の島
その光景は容易に想像がつく。本当に良かった、と水琴は傍らのリリィに顔を向けた。
助けられた、ということももちろんそうだが、リリィにとってはフランとの出会いは別の意味で大きいものだったに違いない。
「故郷のことも分かりそうでよかったね」
そのことなんだが、とダグが口を開いた。
「フランは歌詠みについては知らないかもしれない」
「え?だってお母さんは歌詠みなんでしょう。なら、フランも歌詠みなんじゃ?」
水琴の疑問にリリィが首を振る。
「歌詠みの力は、同性でしか遺伝しないの。お母さんが歌詠みなら、息子のフランには遺伝しない。だから、もしかしたら何も知らされていないのかも」
両親が共に歌詠みならば別だけど、と補足するものの、リリィの中ではその可能性は低いと考えているらしい。
「もし歌詠みのことを知ってたら、あんなに堂々と故郷の歌を披露するわけないから」
確かに、その力を知っていれば隠そうとするのが普通だろう。
特に今この島では王の権力が揺らいでいるのだ。歌詠みだとバレたら兵器として利用するため捕まってしまう恐れもある。__かつてのリリィのように。
「じゃあ、やっぱり手掛かりは手に入らないかもってこと?」
「フランからは難しいかもしれない。だが、彼の母に会うことができるのなら話は変わってくる」
フランの母親が歌詠みであることはほぼ確定している。どうにか明日、彼の母親に会うことができれば故郷の場所が分かるかもしれない、とダグは語る。