第105章 芸術の島
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「遅ェ」
店を出れば案の定、エースがやや膨れた顔で仁王立ちしていた。
時間にしたら20分くらいだったと思うが、待つのが苦手な我らが船長には少々長すぎたのかもしれない。
しかし何もなくただ待つだけというのは確かに堪えるだろう。水琴は素直にごめんと謝った。
「だけど見てみてこれ、可愛いでしょ?」
隣にいたリリィを男性陣の前にずいと突き出す。
せっかく買ったのだからと、店を出る前にリリィは購入した一着に着替えていた。
春らしいブラウスとキュロットスカートに身を包んだリリィは少しだけ恥ずかしそうにスカートの裾を握り男性陣の反応を待つ。
一番最初に良いねェ!と声を上げたのはトウドウだった。
「えらい別嬪さんじゃねェか。なァダグ」
「あぁ、良く似合っている」
トウドウとダグに褒められリリィは嬉しそうに顔を綻ばせる。
細められていた瞳がふと何かに気付いたように瞬いた。きょろきょろと周囲を見渡すリリィに水琴は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
「歌が……」
リリィの呟きに水琴は耳を澄ませる。確かにどこからか微かな旋律が聞こえる気がした。
「確かに向こうの方から聞こえてくるな」
一体どこから、と思っているとキールが通りの先を指さす。
その先は広場になっているようだった。
「芸術の島だからな。大道芸とか音楽家とかが通りで披露してるのかもな」
「__なんだか、聞いたことある気がして」
デュースの推測になるほどと納得した水琴は続けられたリリィの言葉にどういうことだと目を向ける。
他の面々も気になるリリィの物言いに視線を向けた。
当のリリィはその歌を一片も聞き漏らすまいと通りの先を見つめながら小さく口を開く。
「お母さんの、歌と同じ」
リリィの母親__歌詠みの旋律に。