第105章 芸術の島
様々なサイズとデザインで溢れた店内をリリィと共に見て回る。誰かと服を見るのなんて久しぶりで、自分のテンションが上がっていくのが分かった。
何着か手に取りその小さな身体に合わせながら反応を見る。子どもの服とは不思議なもので、どんな系統のものでも似合ってしまうので絞るのにだいぶ苦労した。
「お待たせリリィ」
厳選した服を満足気にまとめ、会計を済ませた水琴はリリィへと振り返る。
リリィは水琴の声に気付かず、じっと上段に飾られた服を見上げていた。
淡い緑色のワンピースは春島の一品らしい素敵なデザインだったが、大人用でリリィが着るにはサイズが大きすぎる。
「サイズがあるか聞いてこようか?」
「あ、違うの。そうじゃなくて」
欲しいのだろうかと顔を覗き込めば慌ててリリィが首を振る。
再びワンピースを見上げるその視線は欲しい、というよりどこか懐かしいものを見るような目だった。
「__お母さんが、よく着てた服に似てて」
ぽつりと零れた言葉に水琴はダグの話を思い出す。
歌詠みとして狙われるリリィを逃がすため、ダグにリリィを託し命を落としたという両親。
「……ご両親は、どんな方たちだったの?」
傷の癒えぬうちに触れていいのかの躊躇いはある。
けれど水琴の目には、リリィは話したがっているように見えた。
水琴の問いにリリィはしばしの沈黙のあと、お父さんは、とぽつりと話し始めた。
「音楽が好きで。いつもギターを片手に歌ってた。私が生まれた村は、田舎で娯楽が少なくて。お父さんがギターを弾くと、いつもみんな集まってきて歌ったり踊ったりしてたの。
__その中でも、お母さんの踊りは一番上手だった」
思い出しているのだろう。ワンピースを見上げるリリィの瞳が優しい光を灯す。
水琴も想像する。小さな村の酒場でギターを片手に陽気に歌う優しそうな男性と、その周りを囲む村の人たち。
そしてその中で楽しそうに踊る、春色のワンピースを着た女性を。