第2章 始まり
「ご迷惑おかけしました…」
「いいっていいって。だけど、心臓に悪いからもうあんなことはやめてな?」
ふわふわのタオルに包まれぺこりと頭を下げる。
結論から言うと、私は帰れなかった。
再び冷たい水の中に沈み込んだ私の手を掴み引っ張り上げたのはやっぱりエースで。
二度目のずぶ濡れになった私を抱え二人は慌ててモビーディックへ戻り風呂場へ私を放りこんだのだった。
そして冒頭へ戻る。
「それよりうちの自慢の風呂はどうよ?」
「はい!すごく気持ちよかったです!まさか船にあんな大きいお風呂があるなんて思いませんでした!」
「だっろ~?うちは大所帯だからな。あれだけ大きくないと入り切れねぇのよ」
サッチが得意げに胸を張る。わざと明るくふるまってくれるサッチの気持ちを嬉しく思いながら、水琴はにっこりと笑う。
「…で、水琴ちゃん」
不意に雰囲気が張り詰めた空気に変わる。
「ほんと~にすまなかった!まさかこんなことになるとは思わなくって…」
「おれも…まさか人間を引っ張り出しちまうとは思ってなくて…」
本当にごめん!と隊長二人に頭を下げられ水琴は慌てる。
「頭を上げてください!別にあれはお二人のせいじゃないんですから!」
先ほど聞いた二人の話をまとめるとこうだ。
つまり、この島には異世界へ通じる井戸があって。
面白半分に試していたら、エースが私を引っ張り出してしまったと。
つまりは、悪気があったわけではない。
単なる不幸な事故だったのだ。
温まって冷静になった水琴の頭はそう結論付ける。
「でもよ……」
「それに、私も元いた世界で井戸に落ちたんです」
何か言いたげなエースを遮りここへ来る前のことを思い出す。
落ちかけたペンダント。
手を伸ばし、反転する視界。
冷たい水に、薄れていく意識。