第104章 サバイバルマッチ
「やばいエース、嵐が来る!」
「__なんで」
小さく零れた震える声にリリィを見る。ダグにしがみつきながら、リリィは脅えた目で空を見上げていた。
「違う。私じゃないのに……なんで、こんな」
「大丈夫だよリリィ」
はっと水琴を見るリリィに水琴はにっこりと笑いかける。
「誰もリリィのせいなんて思ってないよ。グランドラインだもの、突然の嵐なんて日常茶飯事だよ」
「そうなの……?」
「リリィは母親の歌のおかげでグランドラインの荒天を知らずに旅をしていたからな。知らないのも当然だろう」
なるほど。歌詠みの力は嵐すら退けるのか。それは確かに魅力的な力なんだろう。
ダグの説明に感心しているとリリィは気まずそうに目を伏せた。
「でも私、まだお母さんみたいにうまくできなくて__」
どうやら自分がどうにかしないとと思っているようだ。
そんな必要はないのに。
心配ないよと明るく告げる。顔を上げるリリィに力一杯の笑顔を浮かべた。
「これくらいの海、うちの船にはなんてことないよ。なんたって優秀な航海士がついてるからね!」
「そういうこった!さァ沈みたくなきゃ動けよお前さん方!」
水琴に応えるようにトウドウが声を張り上げる。
それを合図にクルーたちは皆自分の役目を果たすため動き出す。
「まさか二回目の海も嵐とはな。穏やかな航海はいつになったらできるのやら」
「そう言うなよデュース。これくらいの海越えられねェようじゃ最強なんて夢のまた夢だろうが」
嵐は段々と強くなる。けれどそれを楽しむかのようにエースの目は輝きを増していく。
この船に乗るクルーの誰一人として、目の前の海に心折れてなどいなかった。
島が遠くなる。周りを囲んでいた船も嵐の向こうに見えなくなっていった。
嵐の間、豪雨にも負けぬ力強い声が黒い旗と共に翻り続けた。