第17章 父の日
「………」
柔らかな日が差す甲板で、一人白ひげは風を浴びていた。
本当は自室でのんびりとしていたのだが、ナース達に「掃除をするので出てください」と部屋を追い出されてしまった。
別にいいと断ったのだが、部屋の衛生管理もナースの仕事だと半ば無理やり締め出された。
しょうがないので食堂にでも行こうかと足を運べば、今度はコック達が「今キッチンの一斉清掃してるんで!」と言い入れてくれなかった。
「今日は大掃除でもやってやがんのか」
しょうがなく白ひげは甲板のいつもの椅子でのんびりと過ごしていた。
普段なら白ひげの姿を見つければ寄ってくる子ども達の姿も今は見えない。
「………」
沈黙する白ひげの背中に僅かに哀愁が漂う。
その哀愁に輪をかけているのが最近の水琴の態度だった。
家族となってからクルー達とはだいぶ距離が縮んだ水琴だったが、未だに白ひげのことは“船長さん”と呼んでいた。
呼び方は別にいい。急に呼び名を変えるのも抵抗があるだろう。
船長さんと言いながらも嬉しそうに傍に寄ってくる水琴を見ていれば、時間をかけてゆっくり慣れてもらえればいいと白ひげは思っていた。
しかし、最近は傍に寄ってくることすらない。
それどころか、姿を見れば挨拶もそこそこにすぐにどこかへ去ってしまう始末。
「………」
まるで思春期の娘に避けられている父親のような背中に、遠くから様子を窺っていたクルー達はひそひそと言葉を交わす。
「…おい、親父落ち込んでるぞ」
「やっぱちょっと徹底しすぎたんじゃねェか?」
「でもお前親父の前に行って隠し通せる自信あるか?」
「………ねェな」
あぁ早く合図がきますように。
うずうずとクルー達はとある合図を待つ。